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「闇」へ<未>(2007)

TAXI TO THE DARK SIDE

メディア映画
製作国アメリカ
ジャンルドキュメンタリー

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投稿者:黒美君彦投稿日:2008-03-16 13:58:45
【ネタバレ注意】

<あらすじ>2002年、アフガニスタン・カブール郊外で拘束されたタクシー運転手・ディラウォルは、バグラム収容所に移送されたのち5日後に死亡する。彼の遺体はあざだらけで拷問が行われたのは明らかだったが軍は「自然死」と発表する。2003年夏からはイラクのアブ・グレイブ刑務所が収容所として使われ、ここでの拘留者虐待が全米を揺るがす。どちらの尋問責任者もキャロリン・ウッドという女性士官だった。だが、この虐待事件は軍上層部や政府が語るように「a few bad apple」(いくつかの腐ったリンゴ)によるものだったのか。取材するうちに拷問・虐待が当時の軍では黙認されていたことが明らかになっていく…。

『エンロン 巨大企業はなぜ崩壊したのか?』のアレックス・ギブニー監督によるドキュメンタリー作品。第80回アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門受賞作品だが、私が観たのはNHKで放送された53分の短縮バージョンだ。
軍隊内部の腐敗を描いた作品『戦争のはじめかた』(01年英独・G・ジョーダン監督)や『真空地帯』(1947年・山本薩夫監督)を観たあとだったので、軍隊が必然的に持つ「加虐性」が外部に向けられた「事実」がきわめてストレートに伝わってきた。
ディラウォルの死亡証明書には“homicide”(他殺)と書いてあったのだ。ディラウォルはテロリスト一掃作戦に巻き込まれ、拘束されたに過ぎなかった。

こうした拷問・虐待の正当化に使われるロジックに「時限爆弾の仮定」がある。
「タイムス・スクエアに時限爆弾が仕掛けられたと仮定しろ。拘束した容疑者は弁護士を要求している。彼の要求をのむべきか。拷問してでも百万人の命を救うべきか」という仮定である。一見もっともな論理にみえるが、FBIの元特別捜査官は「そんな可能性はきわめて低いうえに、拷問したら情報が得られる可能性も低い。白状する前に容疑者は死ぬだろう」と言い切る。
実際、イラクとアルカイダとの軍事協力があったという拷問による証言をもとに、パウエル国務長官(当時)は国連でイラク攻撃を正当化する演説を行ったが、その後この証言が虚偽だったことが明らかにされ、パウエルは「一生の恥」と悔いているという。

同時多発テロ事件を受け、極度の被害者意識に陥った彼の国は拙速ともいえる軍事行動を展開した。ブッシュは“安全保障のためなら何をしてもいい”と考え、ラムズフェルド国防長官は「情報収集を急げ」「手段を選ぶな」と軍を煽った。
一方、前線に送られる兵士たちは社会的少数者で十分な教育を受けていないケースが少なくない。彼らはジュネーブ条約のことなど聞いたこともない。「何をしてもいい」というお墨付きを与えられた者が力を持ち、言葉の通じない異民族を目の前にしたとき、どれだけ残虐になり得るか。元首席補佐官(2002〜05)のL・ウィルカーソンはこう語る。「軍隊には加虐的な気質を持つ者がいる。規則があるからこそ上官は兵士を統率でき、加虐的な側面を抑えることができる。友の戦死を目前でみれば正気を喪う。ギリギリの場でこそ上官は規則を活用し、一線を越えた部下を罰するべきだ」。
07年現在、拘留者の死者は102名。うち37名が殺害と認定されたという。

米国ではブッシュによって「戦時には国家指導者は何でもやれる」という法案が成立した。末端の兵士は虐待で罰せられたが、軍上層部、政府は誰も罪に問われない。
アフガン、パキスタン、イラクでの拘留者の数は8万3千人以上(07年現在)に上るといわれる。その中には本当のテロリストもいただろう。だが元拘留者のベックは「テロリストでなくともあんな虐待を受けて怨みを抱き、新たなテロリストを生み出してしまう」という。まさにその通り。恐怖と憎しみは、新たな憎しみと恐怖を再生産するだけだ。

それにしてもこうした作品が評価される米国のバランス感覚には敬意を抱かずにはおれない。加えてスゴい、と思うのは虐待に携わり、有罪判決を受けた元情報憲兵たちが、実名・素顔で赤裸々に実態を語っているところ。一億総「事なかれ主義」のこの国では考えられないことだ。その勇気には感服する。
暴走しかねない心性は、誰の内部にも巣くっているものだ。他人事だなどとゆめゆめ思わないことが肝要である。

【受賞履歴】
(■=受賞、□=ノミネート)
■ ドキュメンタリー長編賞アレックス・ギブニー 
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