フロスト×ニクソン(2008)FROST/NIXON
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【解説】 ウォーターゲート事件で辞任に追い込まれ、その後罪を認めることなく沈黙を守り通したニクソン元米国大統領。しかし辞任から3年後の77年、一人の英国人司会者デビッド・フロストが彼の単独TVインタビューを敢行する。本作は全米中が注視したこの伝説のTVインタビューをテーマに、その舞台裏で繰り広げられた両者のブレーンを巻き込んでの熾烈な駆け引きと緊迫のトーク・バトルの模様を、名匠ロン・ハワード監督がスリリングに描き出した実録ドラマ。原作は、本作の脚本も手掛けたピーター・モーガンの舞台劇で、同舞台でそれぞれニクソンとフロストを演じた「ナインスゲート」「スーパーマン リターンズ」のフランク・ランジェラと「クィーン」「アンダーワールド」のマイケル・シーンが映画版でもそのまま同じ役に起用された。 1974年。アメリカの歴史上、初めて任期途中で自ら職を辞した大統領という不名誉な称号を背負うことになったリチャード・ニクソン。その後は沈黙を守り、国民は彼の口から謝罪の言葉を聞けずにいた。その頃、英国の人気テレビ司会者デビッド・フロストは、より高いステータスを手に入れるべく全米進出の野望を抱いていた。そこで目を付けたのがニクソンの単独インタビュー番組というものだった。さっそく出演交渉を開始するフロストだったが、海千山千のニクソンは法外なギャラを要求しつつ交渉を有利に進めていく。さらに、3大ネットワークへの売り込みも、コメディアン上がりのフロストなんかに大物政治家の相手が務まるわけがないとの理由で不調に終わる。フロストはやむを得ず、番組を自主製作することを決意、そのために莫大な借金を抱え込むことに。こうしてようやくニクソンの単独インタビューには漕ぎ着けたものの、番組が放送局に売れるかどうかは、ニクソンから謝罪の言葉を引き出せるかどうか、その1点にかかっていたのだが…。 【ウェブリンク】 【ユーザー評価】
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だが彼は一切認めず、謝らずに大統領の座を降りた。その姿には潔さのかけらもなかった。
世界中の人々がニクソンに求めていたのは、潔い姿である。アメリカという大国の大統領なのだ。せめて引き際だけでも、生き方だけでも納得させてほしかった。けじめですな。いくら、対中ソ外交などで功績があったとしても、それを考慮に入れた上で大目に見てくれ、という論理は成り立たない。
要するに、如何にニクソンに罪を認めさせ、謝罪させるか。そここそが、そのプロセスこそが鑑賞者の一番興味をそそられるところなのだ。
そのためには、証拠固めや意表をついた頭脳戦が一番の見所になるはず。しかし、その部分が後半、怒涛のごとく、走り書き風に描かれているに過ぎない点は、少し物足りない気もした。
そこはロンハワードである。どんな難しい話も、見ているものに分かりやすく伝えてしまうのがロンハワード、善し悪しはともかく(私は好きです)。彼はとにかく分かりやすくして、無心で楽しめる映画を作り上げることに全精力を傾ける。
そのような彼だからこそ、インタビューに関わる人間達の内面を面白い視点から掘り下げ、頭脳戦には重きを置かないのに、ハラハラドキドキ出来る人間ドラマに仕上げた。
一つ、つまらん事が気になってしまった。
夜中にニクソンがフロストに掛けた電話の逸話をなぜ、あえて取り上げたのか。
ニクソン擁護派は、彼には忘却癖というかボケの症状があって、彼の働いた悪事もそれが関係していると言いたいのか、と。ま、どうでもいいか。
それにしても、勝負師ニクソン。他人の目に対する配慮が足りなかったのは、人の目を気にせず我が道を強引に行こうとする生来の性格が災いしたのだろうが、逆にそこに魅力を感じた国民がいたからこそ大統領にまでなったのだ。ケネディに敗れた後も大統領をあきらめなかったその執念。コンプレックスの裏返しとは言え、ほんとに政治が好きだった、のか、政治の世界のトップに君臨することが好きだったのか。
不思議と惹きつけられてしまう。
明智光秀も石田三成も、部下たち、周りの人たちには非常に慕われていたという。
敗者になったとしても、トップを脅かすほどの英雄は、我々の想像を超えた魅力に溢れていたのだろう。
ニクソンも然りである、と思いたい。
映画はTVのドキュメント番組の手法をそのまま踏襲したかの様なスタイル。 登場人物の胸の内や、ストーリー途中でのその印象はあらかた台詞にされていて、主要な関係者に依るインタビューとしてまで所々差し込まれていく。
フロストの補佐で入ったボブ・ゼルニックが
:フロストはTVの力を熟知していた。
と語ると直後に、ホワイトハウスを去るニクソンをTVで見るフロストが世界での視聴数を皮算用する姿を描き出す、と言った塩梅なので、まあ観るのに苦労が無いが、このインタビューも出演俳優自身が行っているから、そこは見た目からテレビっぽくせずに、TVドキュメントにおける視聴者の関心を惹くテクニックとして映画に取り込んだ演出にし、更に時代色付けにも使っているところが流石。
ガールフレンドになるキャロラインが初対面で評するフロストの人物像
:大して才能も無いのにすごく有名になった。
全くその通りな軽薄さ、彼はショー番組の司会の人気も翳って落ち目になりつつある。 だからニクソンへのインタビューが誰が見ても私益の為なので志が低い。
フロスト曰く
:アメリカでの成功を失うむなしさが判るかい?、サーディスの常連に二度と戻れないんだぜ。
ニクソン陣営にも組し易い相手と見下されていて、代理人の手管で易々と値上げに引っ掛かっている。 使命感の無いフロストは補佐役からも釘を刺される。
:ニクソンが君の番組で潔白を証明したら、それこそ犯罪だ。
判っちゃいても泥舟に乗るしかない、と言った感じなスタッフ役のゼルニックとレストンに、付き合わされたプロデューサー、ジョン・ハートの腐れ縁だからしようが無いって様子は、脇役として適任な俳優が固めて映画自体をサポートしてるところが面白い。
ニクソンの人となりとしては、大統領も人気商売、多くの人々を相手に語りかけして気の利いたユーモアの一つも持ち合わせてなきゃいけない、と言う事ではフロストと立場が変わらない訳だ。
:生まれて初めて決闘を申し込まれた。 ルールは無用だ。
:ヒルトンに工作員を送ろう。 キューバ人の奴だ。 …冗談だよ。
そして、いざ対決すると金策ばっかりで怠りの多いフロストは当然手応えが無い。 そういう体たらくが返って檄を飛ばす気持ちになったんだろうね。
夜に電話をしてきて、同じ相手を敵にしているはずだと言う。
:君も名門の連中に見下されて自分を敗者に感じるんだろう。
:奴らの尊敬が欲しい。 成功を重ねて窒息させてやる。
:ライムライトは一人しか照らさない、時が来たら全神経を集中して立ち向かうぞ。
敵に贈った塩のせいで急所を追求されて国民への謝罪を口にする事になるが、 それはかなり真摯に語られて言葉が安くない。
:大統領の価値を傷つけた。
:心が犯した罪で理性ではない。 敵がいたからやったのだ。
電話の行為の創作は、ニクソンはやはり指導者の立場にいた人間であること、謝罪もインタビューに促されて行われたのでは無く、自らのものだった、と意味付けした描き出しになるんでしょう。
冷戦は実際の戦争になり、ケネディの様ないわゆる"人気"とも戦わなくてはならなかった。 そしてTVはリアルタイムを、生を数億人へ提示してしまう。
そんなTVの力に屈してしまった大統領に脚本のピーター・モーガンとロン・ハワードはこれ以上なく同情をしている。
その先に今年のブッシュ大統領退任が比べられてるのかは定かじゃない。 僕には判らないね。
モーガンとの組み合わせでマイケル・シーンはますます快調。 フランク・ランジェラがニクソンを大きく演じていた。 それ故、崩れる姿がまた様になる。 フォーカスを巧みに変えて心理状態まで撮り上げたカメラが小憎い。
へぇ〜あの奥様役って「悪い種子」のあの少女だったんですか・・・。キャリアを重ねていけるのって幸せですね!
フィクションもかなり含まれていると聞く。であれば、この映画はエンタメなのであろう。政治家へのインタビューをエンタメにしてしまうという発想に少々驚く。ニクソンという大統領は、それだけ、アメリカ人の心にいやーなわだかまりを深く残した政治家だったのだろう。なんか嫌な政治家だった、そこに娯楽映画の主役になりうる種があったわけだ。「なんか嫌」な所が、魅力なんだな。
私は複雑な心境にならざるを得ない。ニクソンの最大の失政は何といってもベトナム・カンボジア政策であろうが、そこは何となくスルーしてしまう。自信満々に「もっと早く侵攻すべきだった」と唱え、それがプラスに評価されてしまうという米国世論の奇天烈さ。
この映画で、ニクソンの敗北ポイントは、ベトナムではなくウォーターゲートなのであった。しかしながら、ウォーターゲート事件で、誰か無実の民が死んだわけではない。ベトナム戦争とウォーターゲートでは、人類に対する罪の重さではおよそ比較にならないと私は思うのだが、しかし彼が勝負に負けた原因はベトナム戦争ではなくウォーターゲートなのであった。大統領は、ベトナム人を何人殺してもかまわないが、米国民に嘘をついてはいけない、というわけだ。
それはさておき、ニクソンの表情の変遷が非常に印象的な映画であった。善悪はともかく、それなりの才能と人間性を備えた政治家だったのだろう。
元々は舞台戯曲の映画化だから、この映画を観てその「歴史」を学ぼうなんてことは考えない方がいいんだよ。お話を面白く進めるために歴史的事実に創作を加えているようだから。あのやり取りが100%そのままというわけじゃないんだから。この映画がきっかけで、ニクソン大統領とウォーターゲート事件に興味を持つことはいいことなんだろうけど。
フロストとニクソンの丁々発止のやり取りは、劇中でもニクソンの側近であるブレナンが言うようにさながらボクシングの試合みたい。第4ラウンドまでの2人の戦いがスリリングに展開される。ニクソンから「謝罪」の言葉を言わせたいフロストと、このインタビューを利用して政界復帰を画策するニクソンとの腹の探り合いという「対決」の行く末を、観客は固唾を呑んで最後まで見つめることになるのだ。その勝敗は、史実として広く知られているハズなのに。
面白いのは、フロストは政治腐敗を憎む正義感に燃えたジャーナリストではなくって、このインタビューの成功によって名を売りアメリカ進出への足掛かりにしたいと考えている人だということ。その動機は、かなり不純なのだ。ただし、番組の放映権の売却やスポンサー探しに奔走し、ニクソンへのギャラの一部を自腹で払ったりと、その野心と情熱は半端じゃない。この番組作りに取り掛かるあまり、オーストラリアや母国で持っていたレギュラー番組が打ち切りになっちゃって、TV屋としては相当に追いつめられてしまう。これが映画にちょっとしたサスペンスを与えているというわけだ。
辞任したとはいえ、腐っても大統領。アンチ・ニクソンであるレストンはインタビュー初日に「4冊も(ニクソンに関する)本を書いたけど、本人に会うのは初めてだ」と告白し、「誰が握手なんかするもんか!」と言っておきながら、ニクソンが手をさしのべると思わず握手してしまい自己嫌悪に陥る。それほどニクソンは憎たらしいくらい威風堂々としている。フランク・ランジェラが実に巧みにこの役を演じてて鳥肌が立つくらい!
ニクソンはTVというメディアを巧みに使ってのし上がった男だから、こういう「戦場」はお手のものだったんだね。最初からフロストをナメてかかってた。そんな策士にフロストはやり込められ思った通りのインタビューができずに悩むのだが、深夜にニクソンからかかってきた最後通告、はたまた脅しとも取れる電話でジャーナリスト魂に火が着き、俄然、やる気が出てくる。酔っていたとはいえ、ニクソンにしてみれば「お前なんかにゃ負けないぞ!」てな意味があったのかもしれないが、結果としてそのことが敗因に結びつくとは…(しかも本人は覚えていない!)。
フト思ったのは、フロストは英国人だが、当時、同じ様なことを考えていた人がアメリカ国内にはひとりもいなかったのかということ。フロストのような動機でなくても、正義感に燃えたジャーナリストもいただろうに。アメリカ人であればこそ、できなかった事情があったんだろうか? 興味は尽きませんねぇ。番組を売り込んでも3大ネット局は尻込みするくらいだから、辞任から4年も経てば過去の人ということで、たいした視聴率が取れないと踏んだんだろうかねぇ。
「大統領が行えば、その行為は不法ではない!」…権力者って、錯覚しちゃうのね。
舞台版と同じだけあってフランク・ランジェラ、マイケル・シーンの名演が光る。特にニクソンがかの有名な発言をしてしまい、むくれたような表情を見せるシーンなんて絶妙! 辞任でホワイトハウスから出る時と、インタビューを終えた後のニクソンの敗北感と悲愴感が入り混じった表情など、オスカー候補も納得。
脇を固めるケビン・ベーコン、サム・ロックウェルも上手い! フロストの質問にニクソンが本音を言っちゃいそうになって、これはヤバイと感じたブレナンがインタビューを中止させるシーンなんて、思わず「いいところだったのにぃ〜!!」と言いそうになったよ。まるでかの番組の視聴者になっていた気分ね。
ニクソン夫人役がパティ・マコーマック(「悪い種子」!!)だったとはッ!! 気付かんかった…。
日本に当てはめると、「ザ・ベストテン」の司会をしていた頃の久米宏が田中角栄にインタビューを敢行するようなもんか?(違うか)。
素晴らしいぞ!演技、構成、編集の妙。
エンターティナーであるフロストの本能的な獲物に対する食いつきぶりと野心。ニクソンのしたたかな政治家としての底力。
何をどう演じるべきか解かり過ぎているきらいがあり、つくりものめく部分も散見されるが、正統な訓練を受けたのであろう俳優たちの演技の魅力には抗し難いものがある。
舞台劇の映画化にあたり、ロン・ハワードによる映画的肉付けもまた。フロストが航空機の中でナンパする70年代セレブ女のリアルさ、すべてを諦念したニクソンが眺める海、金曜深夜の電話での会話。気持ちが折れたニクソンの茫然ぶりを、見た目のフォーカス・アウトで表現したのは瑕瑾ではあるが。
創造物と対峙することに疲れた「闘う鑑賞者」にハリウッドが与えた癒しの作品。
急ぎ映画館へ!たぶんロング・ランするけど。