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ニッポン国VS泉南石綿村(2017)

メディア映画
上映時間215分
製作国日本
公開情報劇場公開(疾走プロダクション)
初公開年月2018/03/10
ジャンルドキュメンタリー
ニッポン国から棄てられた民が国に問いただす――
ウチらの命、なんぼなん?

【クレジット】
監督:原一男
製作:小林佐智子
構成:小林佐智子
撮影:原一男
編集:秦岳志
音楽:柳下美恵
イラストレーショ
ン:
南奈央子
整音:小川武
【解説】
 「ゆきゆきて、神軍」「全身小説家」の原一男監督が、国を相手取って損害賠償を求める裁判を起こした石綿(アスベスト)被害者とその家族の8年に及ぶ裁判闘争を記録した渾身のドキュメンタリー。かつて大阪・泉南地域には多くのアスベスト工場が密集し“石綿村”と呼ばれ栄えていた。しかしアスベストを吸い込むことで長期の潜伏期間の末に肺ガンや中皮腫を発症することが判明する。しかも国は以前から健康被害を把握していながら、経済を優先して規制や対策を怠っていた。そんな中、2006年に大阪・泉南地域のアスベスト工場の元労働者とその家族が損害賠償を求め国を訴える。本作はこの“大阪・泉南アスベスト国賠訴訟”の原告団に密着し、それぞれの暮らしぶりや人間模様をカメラに収めるとともに、長引く裁判の行方を通して国家と国民のあるべき関係を問うていく。
<allcinema>
【ユーザー評価】
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【ユーザーコメント】
投稿者:黒美君彦投稿日:2018-02-08 17:57:18
【ネタバレ注意】

原一男の8年ぶりの新作ドキュメンタリーは、3時間35分に及ぶ長編だった。
舞台は大阪・泉南地域。ここでは明治の終わりから石綿産業が発展し、最盛期は200以上の工場が密集したという。
耐熱性や絶縁性、保温性に優れた石綿(アスベスト)は、「奇跡の鉱物」として古くから使われてきた。
しかし、吸引したアスベストは、20年〜40年の潜伏期を経て、中皮腫や肺がんを発症させる。「静かな時限爆弾」と呼ばれるようになった所以だ。
国は70年前から調査を行い、健康被害を把握していたが、規制や対策を怠っていた。
2006年、石綿工場の元労働者と家族が、損害賠償を求める裁判を起こした。このドキュメンタリー作品は、彼らが最高裁で勝利を収めるまでの8年間に密着したものだ。

前半は正統的な社会派ドキュメンタリーとして、年老いた原告たちの証言をひとつひとつ拾い集めていく。提訴前、提訴後、次々亡くなっていく被害者の姿が痛々しい。
一方で紡績業の中でも一段低く見られていたという石綿産業の実態も浮かび上がってくる。被害者は在日や、離島からやってきた人が少なくないのだ。だから、そうした労働に従事してきたことを隠そうとする家族もいる。
ところが後半のトーンは一変し、原一男監督らしさが一気に前面に出てくる。
自らもかつて石綿工場を経営し、その反省から第1陣訴訟の提訴時から原告を支援してきた「泉南地域の石綿被害と 市民の会」代表の柚岡一禎さんの怒りをカメラが追い始めるのだ。
厚労省をいきなり訪ねて警備員と揉み合う柚岡氏。弁護士や原告たちから諌められても、彼は理不尽さに対する怒りを収めようとはしない。
しかしその怒りはやがて原告たちの感情にも共鳴していく。どうして国や厚労省は声を聴こうとしないのか。
そもそも二審の大阪高裁判決(2011年8月)で三浦潤裁判長は、現地調査までしながら、一審判決を覆し、住民逆転敗訴を言い渡した。「弊害が懸念されるからといって、工業製品の製造、加工等を直ちに禁止したり、あるいは、厳格な許可制の下でなければ操業を認めないというのでは、工業技術の発達及び産業社会の発展を著しく阻害する」という驚くべき理屈を導き出したのだ。
社会のためなら犠牲は受任せよ、という判決内容だ。
さすがにこの理屈は他の裁判では一切とられなかったから良かったが、裁判官の著しい劣化を示すものとして記憶しておいた方がよい。
そうした理不尽な扱いに、怒りを露わにするのは当然だ、という気になってくる。
第2陣訴訟二審判決で敗訴した国は、原告の思いとは裏腹に上告する。そして一審二審で勝訴した原告とは会おうともしない。
結局最高裁でも国は負け、そこで初めて厚労大臣が詫びるのだ。

後半はしかし、原告一人ひとりの人間性そのものが主題だと言ってもいいだろう。『ゆきゆきて神軍』(1987)で過激な主人公を追った原監督にとって、描くべき対象は人間の感情だ。100年にわたる被害を放置してきた国への怒りだ。
裁判に勝ったからといって健康が回復するわけではない。しかし長い裁判、紆余曲折を経て、苦しみながら亡くなっていった原告たち、闘い抜いた原告たちの人間性に迫る取材は、社会派ドキュメンタリーとしてだけではなく、ヒューマンドラマとしてもとても面白く、上映時間も長さを感じさせなかった。
忘れてはならないことが、この世界にはたくさんある。

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