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 「涼」さんのコメント一覧 登録数(83件)rss
 コメント題投稿者投稿日
[001]きみの友だち
 9点2008-08-03
 【ネタバレ注意】
 素晴らしい作品である。見てから2日経った今でも余韻が残っている。この作品と出会えて本当によかったと思う。  小学生であれ、中学生であれ、それなりにみんな悩みを抱え・・・
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 素晴らしい作品である。見てから2日経った今でも余韻が残っている。この作品と出会えて本当によかったと思う。  小学生であれ、中学生であれ、それなりにみんな悩みを抱えながら生きているだろう。そんな彼らの目線から描かれているため、世代を超えて共感できるものとなっている。  恵美(石橋杏奈)と由香(北浦愛)の友情が軸になっているが、それだけではなく、周囲の人々を丹念に描くことにより小宇宙を感じさせるような、拡がりのあるものになった。  主演以外にも田口トモロヲ、宮崎美子、柄本時生、吉高由里子、三好君役など皆好演。  特に佐藤先輩役の柄本時生は、コンプレックスを抱き後輩にも意地悪をしてしまうがどこか共感できるキャラクターを見事に演じ、強い印象を残した。  柄本ファミリーは、すでに日本映画界にとって無くてはならない存在になっているのかもしれない。  少年少女たちには細かい演技指導はせず、自分たちの解釈で演じさせたそうだ。 それが成功している。大人からの目線ではなく、彼らの目線で演じているため、見る者も彼らになりきり、共感することができるのだ。  一青ようの主題歌もいいが、挿入歌がもっといい。この辺のセンスもいい。  エンドロールの雲の写真も素晴らしい。雲を見ることにより、恵美は由香を思い出すだろう。その時、由香は生きているのだ。  大切な人を喪ったとしても、その人と共有した時間が掛け替えのないものであればあるほど、その後の人生もその人と一緒に生きることができるのだ。  この作品は、そのようなことを教えてくれた。多くの人に見てもらいたい。
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[002]つぐない
 9点2008-04-19
 【ネタバレ注意】
 悲恋に終わるだけに、想像も含めて二人が一緒にいるシーンは比類なく美しい。  戦場で悲惨な状況にありながらロビー(ジェームズ・マカヴォイ)がセシーリア(キーラ・ナイ・・・
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 悲恋に終わるだけに、想像も含めて二人が一緒にいるシーンは比類なく美しい。  戦場で悲惨な状況にありながらロビー(ジェームズ・マカヴォイ)がセシーリア(キーラ・ナイトレイ)を想うシーンが延々と続くが、アンソニー・ミンゲラの「コールドマウンテン」よりはるかに感情移入できる。  視点が錯綜し、最後には真の主役といえるブライオニー(シアーシャ・ローナン、ロモーラ・ガイ、ヴァネッサ・レッドグレーヴ)の視点で固定されるわけだが、違和感は無く、成功していると言える。  少年少女時代にうそをつき好きな人の運命を変えてしまい、終生それが心に引っかかり、作家になった後つぐないをしようとする、という物語の構造は最近見た「君のためなら千回でも」と同じである。  上の階級の者が使用人に酷いことをし、つぐないの内容も自己満足的な色彩が強い、という点も共通している。  両方とも原作がありそれぞれ高い評価を得ているようだ。どちらかが影響された、ということは無いだろうが、ここまで似ているというのも面白い。  現代は「償い」の時代だということだろうか。  同じシーンを別な視点で繰り返し見せるという手法はベルイマンの「仮面/ペルソナ」を思い出させるが、成功していると思う。  キーラ・ナイトレイ、ジェームズ・マカヴォイ、シアーシャ・ローナン、ヴァネッサ・レッドグレーヴ、みな好演。  一人ロモーラ・ガイだけぱっとしなかった。  ヴァネッサ・レッドグレーヴの演技は特に素晴らしい。最近でも「ヴィーナス」、「いつか眠りにつく前に」と70歳を越えて引っ張りだこで、記憶に残る演技をしている。  この人、生きかたも含めて何か好きだ。若いときの作品ももっと見たいし、自伝とかあったらぜひ読んでみたい。  ジョー・ライト監督は第1作「プライドと偏見」では、若々しく躍動感溢れる演出がハッピーエンドの作品に実に効果的だったが、今回の苦渋に満ちた悲劇的な作品ではそれにふさわしい演出をしていて、豊かな可能性を感じさせる。  今回は恋する二人を描くシーンが息を呑むほど美しく、それが悲劇の余韻を深くしていて出色である。
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[003]佐々木麻緒
 20年に一人の逸材2008-01-12
 
 「マリと子犬の物語」での彼女の演技に驚いてしまった。素晴らしいとしか言いようが無い。  これは、彼女が主演の映画である。主演女優賞をあげてもおかしくないだろう。船・・・
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 「マリと子犬の物語」での彼女の演技に驚いてしまった。素晴らしいとしか言いようが無い。  これは、彼女が主演の映画である。主演女優賞をあげてもおかしくないだろう。船越英一郎は脇役に過ぎない。  これは、持って生まれた資質である。20年に一人の逸材だと思う。いずれ「日本映画界の至宝」と呼ばれるときが来るだろう。  すでに「終戦六十年スペシャルドラマ 火垂るの墓」(NTV)で、日本国中の涙を誘う名演技をし話題になった、とのことである。  これからどんな演技を見せるのか、注目していきたい。
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[004]やわらかい手
 9点2007-12-23
 
 素晴らしい。冒頭の俯瞰ショットから一気に引き込まれてしまう。  おばあちゃんが主人公でありながら、余計な感傷は排されていて、むしろ雰囲気はハードボイルド。そこがユ・・・
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 素晴らしい。冒頭の俯瞰ショットから一気に引き込まれてしまう。  おばあちゃんが主人公でありながら、余計な感傷は排されていて、むしろ雰囲気はハードボイルド。そこがユニークで、面白い。  ちょっとジーナ・ローランズの「グロリア」も思い出してしまった。年増女が体を張って子供を助けるという点でも共通している。  素人の未亡人が風俗の世界で才能を開花させ、自信を持つに至る状況を上手く描いている。  いろんな男がいく時の情況を、真上からの視点で見せているが、笑える。  男なら、もし自分がされたならどういうリアクションをするだろうかと思い、女性なら男の反応のヴァリエーションを興味深く見るのではないだろうか。  また、テニス肘ならぬ○ニス肘というのも笑える。  ハードボイルドでありながら、ユーモアもあるこの雰囲気が実にいい。  マリアンヌ・フェイスフルはど素人から風俗で自信を持つにいたる難しいマギー役を好演。  60近い年齢だが、どこをとってもその姿は絵になる。  ヘロイン中毒、3度の離婚、2度の自殺未遂とすさまじい人生を送ってきたらしいが、そこを潜り抜けてきた強さがどこからか滲み出ているような気がする。だから絵になるんだろう。  ミキ役のミキ・マノイロヴィッチも好演。風俗経営者というダークな雰囲気の中にチャーミングな部分も見せていて、感心した。
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[005]サラエボの花
 9点2007-12-23
 【ネタバレ注意】
 今ある自分はどこから来ているのか。  自分の起源をたどったときに誇りを持てなかったとき、人は一体どうすればいいのだろうか。  父のいない母子家庭であっても、父がシ・・・
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 今ある自分はどこから来ているのか。  自分の起源をたどったときに誇りを持てなかったとき、人は一体どうすればいいのだろうか。  父のいない母子家庭であっても、父がシャヒード(殉教者)であるのか敵であるのかでは、子供にとって天と地ほどの差があるということだ。  自分の存在自体を否定したくなるような状況。このような中でどうやって生きていけばいいのだろう。  楽しみにしていた修学旅行に、坊主になっても行き、バスの後ろから母を見るその眼差しに、その答えはあるだろう。  ボスニア紛争から10年。この紛争では、敵の民族の子を生ませ、所属民族までを辱め、後世に影響を残すことが作戦として組織的に行われたということである。  2万人の女性がレイプされ、各地に収容された女性は連日多くの兵士にレイプされたとのことである。その一人としてエスマを描いているわけだ。  レイプ自体は思い出したくもない。トラウマになっている。しかし、生まれてきた子を見たとたん、美しい、宝物だと思った。  だから、起源を問う必要は無いのだろう。そして人を愛せる心が最も大切なのだと言っているのだろう。  ヤスミラ・ジュバニッチ監督は33歳。  同世代に李相日、西川美和、グロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルクがいる。まさに注目すべき世代である。 
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[006]自虐の詩
 9点2007-11-25
 【ネタバレ注意】
 ラストの熊本さん(アジャコング)との再会シーンが素晴らしい。  この作品は、大阪、気仙沼、東京パートに分かれているが、気仙沼が一番いい。  犯罪者の娘としていじめ・・・
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 ラストの熊本さん(アジャコング)との再会シーンが素晴らしい。  この作品は、大阪、気仙沼、東京パートに分かれているが、気仙沼が一番いい。  犯罪者の娘としていじめられる主人公と彼女を励ます熊本さんとの交流の描き方が出色である。  熊本さんは、黒人との混血という設定のようだが、その出自と貧乏ということから差別されていてもへこたれず、温かい心を持ち、たくましく生きるというキャラクターを丸岡知恵さんが好演している。  見送りの際の弁当の中身に感動した。  熊本さんが用意できる、精一杯の最高のおかず(さんまとか)の乗ったその弁当は、心がこもっていて実においしそうだった。  弁当の中身が心を表している稀有な例だと思う。  このエピソードがあるからラストの再会シーンにやられるのだ。  大人になった熊本さん役のアジャコングは、キャリア18年のプロレスラー。  父は黒人の米軍人で、幼少時本国召還されてしまい、以来父とは生き別れで母子家庭で育ち、中学卒業まで深刻ないじめにあっていたそうだ。  まさに熊本さんそのものである。だから説得力があったのだ。  このキャスティングが生きている。   ちゃぶ台返しのシーンではタンゴがかぶさるが、それが実にマッチしている。  音楽:澤野弘之がいい。  東京パートのイサオと大阪のそれとが、時の経過はあったにせよあまりに違うことに違和感がある。幸江についても同様である。  SとMが逆転しているようにも見えるが、いまひとつ説得力を持たない。  原作はどうあれ、東京パートは、いらないのではないだろうか。  そのほうがすっきりするような気がするが。  阿部寛と中谷美紀は好演している。  阿部に関しては、日本の俳優としては、そこにいるだけでスター性を感じさせる数少ない一人だと思う。  二枚目でありながら、それにとどまらないものを志向しているのが見て取れ、これからの可能性を感じる。  中谷美紀の演技を見るのもほとんど初めてと言っていいかもしれないが、やはり上手いと思った。  この人は役柄に対して結構知的にアプローチするような気がする。 彼女の著書「インド旅行記1」(幻冬社文庫)を読んだが、その印象は間違っていなかったと思った。文章力もあり、彼女のスターらしくない飾らない人柄も感じられ、好感を持ってしまった。
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[007]僕のピアノコンチェルト
 10点2007-11-18
 
 素晴らしい!!最近これほど映画を見る喜び、楽しさを感じた作品はない。  子供から大人まで、あらゆる年代の人に愛される要素を持った、宝物のような作品だと思う。  独・・・
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 素晴らしい!!最近これほど映画を見る喜び、楽しさを感じた作品はない。  子供から大人まで、あらゆる年代の人に愛される要素を持った、宝物のような作品だと思う。  独創性に溢れていて、一種のファンタジーだとも言える。  私を含め、ほとんどの人は昔天才少年・少女ではなかったと思うが、この121分の間ヴィトスになりきり、思い通りのことをやれる開放感、爽快感を味わえる。その点では娯楽性十分である。  オープニングの飛行機の場面から数年前にさかのぼり、ラスト近くで当初の場面に戻るという構成も見事に決まっている。  ヴィトス役の天才ピアニスト、テオ・ゲオルギューの実際の演奏が単なるファンタジーを超えたリアル感をもたらしているところが面白い。  天才ゆえの悩みや、天才のわが子を持つ父と母の喜びや苦悩、祖父とのふれあい、大人の女性への恋愛感情なども良く描きこまれてあり、申し分ない。  多くの人が言っているように、ブルーノ・ガンツはやはり名演である。  母役の女優がもう少し美人だったら言うことはないが。  それにしても「山の焚火」といい、この作品といいフレディ・M・ムーラーは凄い。  15本も作っているらしいが、ぜひ全作品をDVD化してほしいものである。
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[008]4分間のピアニスト
 9点2007-11-17
 【ネタバレ注意】
 女囚とピアノ教師の関係の描き方がリアルだった。  殺人の罪を着せられている人間がそう簡単にピアノ教師に心を開くわけが無いわけで、何度もぶつかることがむしろ自然だと・・・
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 女囚とピアノ教師の関係の描き方がリアルだった。  殺人の罪を着せられている人間がそう簡単にピアノ教師に心を開くわけが無いわけで、何度もぶつかることがむしろ自然だと思う。  その上で、少しずつ心を開いていき、互いに共感する部分も出てくる。その辺の描き方が自然で、上手い。  主演の二人の女優がいい。  凶暴だがどこか純なところのあるジェニーをハンナー・ヘルツシェブルングが、重い過去に引きずられながらも、現実を変えていこうという意欲を持つクリューガーをモニカ・フライトブロイが好演。  最後、予想外の演奏になった時の教え子を理解するクリューガーの暖かなまなざしが印象深い。  ラストの4分間の演奏も良かった。  本当に弾きたいもの、自分の心からの叫びを音で表した後のジェニーの晴れ晴れとした表情は、これからの彼女の人生が変わっていくことを暗示していて、見る者を力付ける。
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[009]フリーダム・ライターズ
 10点2007-08-22
 【ネタバレ注意】
 素晴らしい作品である。女性教師の圧倒的な情熱により生徒たちの人生を変えたその過程がリアルに描かれ、感動を呼ぶ。実話に基づいているということが、その感動をさらに深い・・・
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 素晴らしい作品である。女性教師の圧倒的な情熱により生徒たちの人生を変えたその過程がリアルに描かれ、感動を呼ぶ。実話に基づいているということが、その感動をさらに深いものにする。  エリン(ヒラリー・スワンク)の創意・工夫に満ちた授業に感心させられた。  こんな魅力的な授業をしてもらったら、どんな生徒でもついていくだろう。  彼女と出会ったことで多くの生徒が負の循環構造から抜け出すことができたのなら、それは素晴らしいことである。  生徒にとってのいい先生の1つの理想像であろう。いい教育を与えるためにブラジャーの売り子までやって資金を稼ぐ。そこには打算・功名心などかけらも無い。    18歳まで生きることが目標。大学進学なんて夢のまた夢。  そういう酷い状況にいる生徒たちにもう少しましな夢を持ってもらおうという彼女の熱い気持ちに、心が動かされる。  エリンになりきったヒラリー・スワンクの演技が素晴らしい。  父親(スコット・グレン)がエリンに「お前は俺の誇りだ」といったときの彼女の表情は、演技を超えていた。  実際のエリン先生のインタビュー映像を見ると、その暖かい、明るい雰囲気と豊かな表情に魅せられてしまう。  彼女は映画化に際し、ヒラリー・スワンクの主演を熱望し、ヒラリーも脚本に感銘を受け出演を熱望したという。そして出演が決定した時は、電話してお互いに嬉しさで泣いたという。  情熱溢れる類まれな二人の女性が出会うことにより、このような素晴らしい作品が生まれた。二人に、心から感謝したい。  生徒役の俳優一人ひとりがいい味を出していた。ラストにエリン先生を囲んだ本当の写真が出るが、まるで彼らが映っているようだった。  きっと、彼らも共感を持って演技したことだろう。
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[010]善き人のためのソナタ
 9点2007-03-14
 【ネタバレ注意】
 素晴らしい作品である。ラストシーンのヴィースラー(ウルリッヒ・ミューエ)の、初めて見せる誇りに満ちた表情は、トラウマから解放された人のものである。そして、同じような・・・
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 素晴らしい作品である。ラストシーンのヴィースラー(ウルリッヒ・ミューエ)の、初めて見せる誇りに満ちた表情は、トラウマから解放された人のものである。そして、同じようなトラウマを抱える人に何らかの光を与えるような、そんないい表情だと思う。  これだけ素晴らしいラストシーンは、そう無い。ジャン・ルイ・トランティニャンとロミー・シュナイダーが共演した、あの「離愁」に匹敵するだろう。  監視国家、密告社会がどれだけ人間を傷つけるか。当時、旧東ドイツにはシュタージ(国家保安省職員)は9万7千人、非公式協力者は17万3千人いたそうで、両者を合わせると国民6.5人に1人はいた計算になるという。知らないうちに、友人、恋人、家族から密告されていた。このようなことがわかったとき、当人はどんな気持ちになるだろうか?  ドライマン(セバスチャン・コッホ)が愛するクリスタ(マルティナ・ゲデック)に裏切られたことを知ったときの心の傷は、いかばかりだろうか?  一方、クリスタは弱みを握られたこともあって、シュタージに協力してしまう。弱みのない人間なんていない。クリスタのように、自発的にではなく、消極的に協力した人も大勢いたことだろう。そのような人は、密告したこと自体が心の傷になっているはずである。  密告された人も、密告した人も傷つく。そして、ヴィースラーのようにシュタージとしての自分の任務に嫌悪感を抱き、傷つく者もいるだろう。  恐ろしい社会だ。こんな社会が、たかが20数年前に存在していたなんて!こんな社会では、精神的に健康であることなど有り得ないだろう。  トラウマからの解放は、その傷を見つめ直すことからしか生まれない。それから目をそらしたり自分を騙したりしたら、傷は残ったままだ。  これまでは、この時代に関してはコメディしかなかったという。「グッバイ、レーニン!」がいい例である。確かにこの作品では監視国家で傷つく人は出てこない。主人公の母は、むしろ東ドイツのこの時代を肯定的に捉えているのだ。そんな作品を見ても、いまだに心の傷を持つ人には、何の役にも立たないだろう。  東西ドイツの統一から17年たっても、当時のことを一切言わない人は多いらしい。旧東ドイツ出身の多くの人は、心の傷を抱え込んだまま生きていると思われる。  そのような人が本作品を見ることによって、ヴィースラーやドライマンに自分を重ね合わせることによって、心の傷が癒える場合もあるだろう。それほどの力を、この作品は持っているのである。  ウルリッヒ・ミューエは、国家に忠実なシュタージから、徐々に監視する相手に共感を抱くようになるまでの感情の変化を、抑えた表情の中で見事に表現した。  実は彼の女優である妻がシュタージの非公式協力者で、10数年間自らの行動を密告され続けていたという。実人生で彼はドライマンだったのである。彼の「共感」の演技が説得力を持つのは、このような背景も一因だろう。  ドナースマルク監督は33歳。初作品なのに素晴らしい力量を感じさせた。次回作も、大いに期待したい。 日本の李相日、西川美和、韓国のポン・ジュノとほぼ同世代である。またこの世代に楽しみな監督が出現したことが、嬉しい。
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[011]ドリームガールズ
 9点2007-02-24
 【ネタバレ注意】
 歌を堪能し、腹いっぱいになった感じ。ソウル・ミュージックのライブを聴いているようで、オリジナルの曲も良く、みんな歌唱力のある人ぞろいなので、それだけで満足してしま・・・
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 歌を堪能し、腹いっぱいになった感じ。ソウル・ミュージックのライブを聴いているようで、オリジナルの曲も良く、みんな歌唱力のある人ぞろいなので、それだけで満足してしまった。  全員吹き替え無しらしいが、演技ができてここまで歌える人をよく集めたものだ。  その中でもジェニファー・ハドソンの歌が聴く者を圧倒し、その心を捉えて離さない。  作品の構造自体は中途半端で、画期的とは言い難いのだが、それとは別次元で、彼女の歌が直接心に突き刺さってくるのである。  本作品は大ヒットしたブロードウェイミュージカルを映画化したものだが、このコーラスグループのモデルは「シュープリームス」であるとされている。ディーナ(ビヨンセ・ノウルズ)のモデルは、今も健在のダイアナ・ロス。  エフィー(ジェニファー・ハドソン)のモデルは、フローレンス・バラードと言う。  1961年、モータウンの創始者とこのグループが契約。1963年、バラードからダイアナ・ロスにリードボーカルを変更。このことで、バラードは精神的に不安定になり、トラブルを連発し、1967年グループを脱退。その後ソロ活動をしたがうまくゆかず、社会保障手当てを受けながら3人の子を育てた。シュープリームスの元メンバーとステージに立ったりして脚光を浴びることもあったが、1976年、32歳の若さで急死したという。  画面に登場する時間からいったら、ディーナとカーティス(ジェイミー・フォックス)が主役ということになるが、この二人には主役としての魅力がない。  ディーナは自分が操られていたことに気付き、本来の自分に戻ろうと決意したが、それはリードボーカルからサブに戻ることだった、というのでは、大して訴えるものがない。  カーティスも前半は白人社会で成功するための苦労や努力について共感できる描かれ方をしているが、後半は商売で成功することだけを考える薄っぺらな男として描かれている。  一方、この二人に登場時間では及ばないが、非常に魅力的に描かれているのがエフィーである。実力はあるのに商売優先でメインからはずされ、結局首になり、社会保障を受け失意の日々を過ごすが、最後に復活するというその劇的な人生をたどる彼女こそ、主役にふさわしい人物である。なのに、なぜ彼女を脇役の位置にとどめたのか?  この作品の構造上の欠陥は、本来主役の位置に置くべき人物を脇役に置いている点にある。だから、作品の印象が拡散してしまった。最初から最後まで、エフィーを中心に描いていけば、もっと人の心を打つ、いい作品になったことであろう。そこが惜しまれる。  なぜ、こういうことになったのか?それは、監督・脚本のビル・コンドンに、シュープリームス時代も含め、ビルボード1位を18回も獲ったという史上2位の記録を持つUS芸能界の首領、ダイアナ・ロスに対する遠慮があったからだと思う。だけど、そんなことで遠慮してたらダメなんだな。もっと勇気を持たなきゃ。作品の成否にかかわることなんだから。  ラストで、カーティスがエフィーの娘に接近する場面の意味がわからなかった。何かやるのかとドキドキしたものだったが、実はこの子の父親はカーティスであり、彼がそれに気づいた、ということらしい。これなど明らかに蛇足である。  ステージに立つ母を見て、「お母さんはこんなに凄い人だったんだ」という娘の誇らしい表情のアップで終わらせるべきなのである。  ジェニファー・ハドソンが素晴らしい。歌手として、人を感動させる天性のものを持っている。また、女優としての才能にも恵まれていると思う。  まだ25歳。これからどういう人生をたどっていくのか。たぶんエフィーとは違う人生だろう。注目していきたい。                                      
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[012]武士の一分(いちぶん)
 8点2006-12-18
 【ネタバレ注意】
 ほのぼのとした夫婦愛を描いた、どこか「日本的」なものの良さを感じさせる作品である。  これで藤沢周平三部作を全て見たことになるので、自然とそれぞれを比較してみたく・・・
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 ほのぼのとした夫婦愛を描いた、どこか「日本的」なものの良さを感じさせる作品である。  これで藤沢周平三部作を全て見たことになるので、自然とそれぞれを比較してみたくなる。しかし、もっぱら比較の対象になるのが「たそがれ清兵衛」で、「隠し剣 鬼の爪」はどうも影が薄い。  劇的構成力においては、「たそがれ清兵衛」に劣る。残念だが、感銘の度合いが違う。ラストの一点に収斂していくあの構成は、改めて見事だったと思う。  目が見えなくなるという悲劇的な設定だが、その割には主役にユーモアがあって面白い。  全編に余裕から来るユーモアが流れていて、そこが緊張感漲る「たそがれ清兵衛」と大きく異なる点であり、本作品の良さでもあると思う。桃井かおりなどもそれに大いに貢献している。  徳平(笹野高史)を相手の素振りの迫力に、度肝を抜かれた。あれは凄い。剣術指導の箕輪勝も感心していたらしいが、本物だと思った。  ただ、肝心の果し合いがあっけなく終わってしまい、この木刀の素振りの印象の方が強いのはいまいちだった。斬り合いということでいうと、「たそがれ清兵衛」の真田広之と田中泯のそれは映画史上に残るような名場面だったと改めて思う。    壇れいは、宝塚の中国公演では「楊貴妃の再来」と言われたらしいが、演技力ではもちろん、美しさでも「たそがれ清兵衛」の宮沢りえの方が勝っていると思う。  一つ気になったのが方言についてである。いったい方言指導はどうなってるんだ。木村拓哉の山形弁は結構いいと思うが、他の出演者はほとんど標準語に近いじゃないか。木村の言葉を基準に聞いていると、周囲のやつらは皆江戸から来たのか思えてしまうほどだ。言葉のバランスが取れていず、この点は致命的な欠陥だと思うのだが、これまで読んだどの批評・感想にもこの点に関する言及がないのはどうしたことだろうか。  監督も木村の演技を「天才的」と評していたが、確かにそういうところはあると思う。俳優としての資質は凄いものがある。畏れ入った。主演男優賞の候補には十分入るほどの演技だと思う。  「2046」での演技は酷く、トニー・レオンとの演技力の差が目につき、さんざん馬鹿にした私だったが、今回は見直した。同じ俳優とは到底思えないほどの素晴らしさだ。  きっと、ウォン・カーワイの演出が良くなかったのだろう。  これで山田洋次監督作品を見るのは8作目になる。順位をつけると、以下のとおりである。                      1.たそがれ清兵衛                            2.同胞                        3.武士の一分                           4.隠し剣 鬼の爪           5.幸福の黄色いハンカチ           6.男はつらいよ 寅次郎夢枕           7.吹けば飛ぶよな男だが           8.男はつらいよ 寅次郎相合傘      
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[013]フィリップ・ノワレ
 ベスト52006-12-05
 
 フィリップ・ノワレが亡くなりました。75歳でした。私は、フランス映画というとこの人を思い浮かべます。フランスを代表する名優だったのではないでしょうか。もっと生きて・・・
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 フィリップ・ノワレが亡くなりました。75歳でした。私は、フランス映画というとこの人を思い浮かべます。フランスを代表する名優だったのではないでしょうか。もっと生きて素晴らしい演技を見せて欲しかったです。残念で、悲しいです。  彼の出演作品は、これまで8本見ています。順位をつけると、以下のとおりです。        1. イル・ポスティーノ        2. 追想        3. 女たちのテーブル        4. ニュー・シネマ・パラダイス        5. 将軍たちの夜        6. 最後の晩餐        7. 魚のスープ        8. タンゴ  1位の「イル・ポスティーノ」は、実にいい映画でした。涙が止まらなかった記憶があります。これは、皆さんにお薦めしたいです。彼も、詩人パブロ・ネルーダを好演。マッシモ・トロイージも良かったです。  2位の「追想」も素晴らしい映画でした。彼とともに、ロミー・シュナイダーの演技も良かったように思います。家族3人で楽しそうにサイクリングをしているシーンが、今でも目に焼きついています。  3位の「女たちのテーブル」は確か監督が女性で、温かい印象の作品でした。  6位の「最後の晩餐」は、官能的でデカダンな味わいのある、面白い作品でした。彼を含めフランス、イタリアの4人の名優の演技とフィリップ・サルドの音楽が印象に残っています。
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[014]手紙
 9点2006-12-03
 【ネタバレ注意】
 十分に見応えがあり、考えさせられる作品だった。力作である。  これまで、本作品のように犯罪後の状況を加害者の側から描いたものはあっただろうか?タブー視されていて、・・・
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 十分に見応えがあり、考えさせられる作品だった。力作である。  これまで、本作品のように犯罪後の状況を加害者の側から描いたものはあっただろうか?タブー視されていて、企画に乗ることすらなかったのではないか。少なくとも私にはこれに類する作品を挙げることができなかった。これをきっかけにこういう状況に置かれた人々について考えることができたことは、非常に有意義だった。  ラストの、歩いている直貴(山田孝之)の悩みから開放されたような、すっきりとした表情がいい。それまでは悩み・苦しみから暗い表情ばかりで、あのような表情をついぞ見せることは無かった。どんな困難があっても兄との絆を断ち切らない決意が、心の平安をもたらしたのだろう。見る者に希望を与えるラストシーンである。  兄の犯罪のせいで、最初から暗く周囲と打ち解けない直貴が、お笑いをやっているという設定に違和感があった。この違和感はラストの刑務所の慰問シーンに至ってやっと無くなる。このシーンでの効果をあげるために、直貴のやりたいことを原作のミュージシャンからお笑い芸人に変えたようだが、もう少し序盤からその違和感を無くす工夫が必要だったろう。  その慰問シーンは秀逸。このとき初めてこの漫才コンビが面白いように見え、山田孝之の、予期せぬ展開に思わず兄への真情を吐露する部分の演技が光った。また、兄(玉山鉄二)の泣きながら手を合わせる演技も良かった。また、観客に本当に受けているようなリアルさと臨場感が、このシーンの印象をより強いものにした。  沢尻エリカが素晴らしい。兄からの手紙を破り捨てた直貴を諌めるシーン、社宅を出ようと考える直貴に逃げるなというシーンでの演技が特に印象深い。  さすがキネ旬新人女優賞を取っただけのことはある。まだ20歳。アメリカでいえば22歳のスカーレット・ヨハンソンにも匹敵する大器だと思う。これから楽しみである。  刑務所の手紙の検閲マークがこれほどの悲劇をもたらすのなら、それをやめたらどうなのか?こういった事実は当然刑務所側でも把握しているだろう。  また、この映画によりこの検閲印が知れ渡り、ますます受刑者と家族が手紙のやりとりをしにくくなるということもあるだろう。面談以外の唯一のコミュニケーションをとる方法がこれでは、ますます受刑者は孤立してしまい、社会復帰にはマイナスとなってしまう。  刑務所側が受刑者の社会復帰ということを真剣に考えているのなら、当然配慮すべきことである。金もかからないし、ちょっとした工夫で今すぐにでもできるだろうに。  このような地味な作品がシネコンにかかり、しかもかなりヒットしている事実を喜びたい。  普通、映画に楽しみを求める人なら、二の足を踏むようなストーリーだろう。ドラマ好きの私ですら、正直、ためらいがあったのだ。  それが11/28時点での興行成績が4位だという。興収も10億を超えそうである。  いい作品を正当に評価する人が増えるとき、邦画の質は確実に良くなっていくだろう。
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[015]フラガール
 10点2006-09-30
 【ネタバレ注意】
 素晴らしい!!!傑作!!!!  この作品は、10人中9人はいいと思うのではないか?性別、年齢、国籍を問わず人の心の琴線に触れる作品だと思う。  どうしてこう炭鉱物・・・
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 素晴らしい!!!傑作!!!!  この作品は、10人中9人はいいと思うのではないか?性別、年齢、国籍を問わず人の心の琴線に触れる作品だと思う。  どうしてこう炭鉱物にはいい作品が多いのだろう。「遠い空の向こうに」「ブラス!」「リトル・ダンサー」など皆そうだ。  たぶん、斜陽=逆境から脱出しようとするとき、その生き方が輝きを帯びるからだろう。  「遠い空の向こうに」「リトル・ダンサー」では個人が逆境から抜け出し、「ブラス!」ではコンクールで優勝するという成果は得るが、それは逆境を変えるまでにはいたらない。  しかし、事実に基づいた本作品では、逆境を組織的に乗り越えることを描く。ダンサーに象徴される、新たな職を見つけられた一人ひとりの炭鉱労働者とその家族の喜びが、作品自体を明るいものにしている。炭鉱物で、このような作品は世界的にも珍しいのではないか。  一番ダンスをやりたかった親友が夕張に行くことになるとか、ダンサー仲間の父親が落盤事故でなくなるなどのエピソードもリアルで良い。これらにより、ラストの感動がいっそう強まった。  松雪泰子が、勝気で突っ張っているが実は心優しいダンス教師役を好演。早苗(徳永エリ)に暴力をふるう父親に怒って銭湯の中にまで入って抗議するシーンや、別れの場面で思わず彼女に抱きつくシーンは秀逸。まさに、魂の演技。素晴らしい演技で、好きになってしまった。ぜひキネ旬主演女優賞を取って欲しい!!これまではテレビが多かったようだが、これからはどんどん映画に出てもらいたい。  ラストの蒼井優のソロダンスが素晴らしい。華やかさと巧さに圧倒された。この作品の成功は、このダンスによるところも大きい。  娘の紀美子(蒼井優)がダンスの練習しているところを訪れる場面、母役の富司純子の表情に驚きとか喜びの表情を読み取ることがほとんどできなかった。ほとんど無表情に近いように見えた。ここの演技、もう少し何とかならなかったか。  「リトル・ダンサー」で息子のダンスを初めて見てはっとするときのゲイリー・ルイスの表情に比べると、どうしても見劣りしてしまう。その後、娘を理解し、支援するようになるのだから、それなりの表情を見せるべきである。熱演はわかるが、なんか一本調子なんだな。  ともあれ、これは、世界に通用する作品だと思う。アカデミー賞外国語映画部門に出品されることになったらしいが、願わくばノミネートされて、全世界の人々が見るようになってほしい。
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[016]
 9点2006-09-21
 【ネタバレ注意】
 相変わらず、ストーリー展開の予測がつかない。予想を裏切られたときの驚きの累積が、静かな興奮を呼び起こす。これがあるからキム・ギドクはやめられない。真に畏敬すべき存・・・
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 相変わらず、ストーリー展開の予測がつかない。予想を裏切られたときの驚きの累積が、静かな興奮を呼び起こす。これがあるからキム・ギドクはやめられない。真に畏敬すべき存在である。  この話は、愛の寓話もしくは神話と見るべきなのだろう。  監督は、「現実と魂の融合」を描きたかったという。  老人が中空に放った矢が突き刺さり処女喪失するシーンは、まさに魂との交接であり、強い衝撃を受けた。監督の意図が見事に具現化された秀逸なシーンである。  また、魂の動力で船が動き、沈んでいくシーンも素晴らしい。  ただ、監督は、老人には下心が無いと言っているが、カレンダーにハートマークなんかつけて結婚式と記入し、やばい状況になるやカレンダーを破り捨て、前倒しして一緒の床にする、という設定は漫画チックでちょっと俗っぽ過ぎないか。  「現実と魂の融合」を見る者に納得させるには、この俗っぽさをもう少し抑える必要はあったかもしれない。  弓占いのシーンは、実際に監督が弓を射ったのだという。自分でやるというところが、この人の恐ろしいところだ。  ハン・ヨルムが無垢で、妖艶さも併せ持つ少女を見事に演じた。この作品の成功は、彼女の魅力と演技に負うところが大きい。女優としての可能性を感じさせる。  弓(ヘグム)で音楽を奏でるシーンで音楽が流れるが、それが作品自体を通俗的にしているような印象を持った。画の見せ方は芸術的だが、音の使い方が俗っぽく、そこがアンバランスなような気がしたのである。  これでキム・ギドク監督作品は8本見たことになる。順位をつけると、以下のとおりである。                        1.うつせみ                        2.弓                        3.悪い女                        4.悪い男                        5.サマリア                        6.春夏秋冬そして春                        7.コースト・ガード                        8.受取人不明   
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[017]グエムル -漢江の怪物-
 9点2006-09-09
 【ネタバレ注意】
 並の面白さでない。韓国で大ヒットしたのは当然である。日本でも一人でも多くの人に見てもらいたい!!  駐留米軍がホルムアルデヒドを漢江に流した事件に発想を得ているよ・・・
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 並の面白さでない。韓国で大ヒットしたのは当然である。日本でも一人でも多くの人に見てもらいたい!!  駐留米軍がホルムアルデヒドを漢江に流した事件に発想を得ているようだが、そこからここまで面白い話を作れるとは。ポン・ジュノの才能は、ずば抜けている。  駐留米軍、動物からのウイルス感染など今まさに問題になっているものを織り込みながら、家族愛を中心に据えつつ、ホラーやアクション映画の要素もあるエンタテイメント作品に作り上げたその力量は、凄いと言わざるを得ない。  翻って日本では、漫画や小説の原作に寄りかかったものがほとんどで、このようなオリジナルな発想で勝負している奴は、どれだけいるだろうか?  前作「殺人の追憶」も、単なる犯罪物にとどまらない何かがあり、強烈な印象を残したが、全体的に雰囲気は暗かった。ところが、本作はユーモアが顕著であり、大きく作風が変わっている。この変貌こそが豊かな資質の証なのかもしれない。  疾走する怪獣とともに逃げ惑う人々を追うカメラワークがリアルな恐怖感をもたらし、実に効果的である。怪獣映画というよりは、ホラー映画に近いだろう。印象としては、「エイリアン」に近い。  一般にホラー映画はユーモアとは相容れないと思うが、本作は例外であり、それが娯楽作品としても成功している要因にもなっている。  河川敷に店を出しているパク・カンドゥ(ソン・ガンホ)とその家族は、社会構造的には最底辺に位置するだろう。しかし、家族を思うことでは誰にも負けない。この設定がいい。これが、彼らと同じ階層を含んだ観客の共感を呼び、大ヒットにつながった側面もあるかもしれない。ソン・ガンホの庶民的なキャラクターも大いに貢献しているだろう。  愛する家族を救うことがメインの話なのだから、当然ある結末が期待される。しかし、結果は予想外のものとなる。  だが、このラストによって、本作品はありきたりのドラマとは違った位相を持つようになる。家族、血縁を超えた愛は存在し、それによって人間は救われる、とでも言っているかのようであり、だとすれば、そのメッセージは素晴らしい。  音楽:イ・ビョンウも良い。
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[018]ロン・ハワード
 ベスト102006-09-02
 
 今やアメリカを代表する監督になったロン・ハワード。  私は彼の作品が大好きです。家族の情愛を描かせたら、彼の右に出るものはいないでしょう。そこで「ダ・ヴィンチ・コ・・・
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 今やアメリカを代表する監督になったロン・ハワード。  私は彼の作品が大好きです。家族の情愛を描かせたら、彼の右に出るものはいないでしょう。そこで「ダ・ヴィンチ・コード」公開をきっかけに、未見の作品も可能な限り見てみようと思い立ちました。で、見た合計は16本。  順位をつけると、以下のとおりです。          1.シンデレラマン          2.バックドラフト          3.アポロ13          4.ダ・ヴィンチ・コード          5.ザ・ペーパー          6.ミッシング          7.エドtv          8.ビューティフル・マインド          9.バックマン家の人々          10.身代金          11.ウィロー          12.スプラッシュ          13.ガン・ホー          14.遥かなる大地へ          15.グリンチ          16.バニシング IN TURBO  1位の「シンデレラマン」は親子の情愛が素晴らしい。禁止されていたのに、母の実家で子供たちがラジオの実況にじっと聞き入るシーン、ぐっと来ます。  2位の「バックドラフト」もいろいろ盛りだくさんだが、兄弟愛がメインの物語。兄の死を経て一人前の消防士になって行くウィリアム・ボールドウィンがいい。  5位の「ザ・ペーパー」は知名度が低いようですが、見ごたえのある作品です。新聞記者という職業を理解するのには格好の一作。同じマスコミ関係の「グッドナイト&グッドラック」よりもずっといいと思います。マイケル・キートンがいい味出しています。  6位の「ミッシング」はケイト・ブランシェットが良かったです。彼女の出演作品は他に「シッピング・ニュース」「ヘヴン」「ヴェロニカ・ゲリン」「アビエイター」と見ていますが、本作品での演技が一番いいと思います。  10位の「身代金」は、メル・ギブソンが子供思いのワンマン社長を熱演。犯人との交渉も予測を超える展開で非常に面白いですが、全体として、ありきたりなアクション映画になってしまったことが惜しまれます。  ゲイリー・シニーズが「アポロ13」とは正反対の悪役を演じているのが面白いです。  12位の「スプラッシュ」は、前半だれますが、後半から引き込まれました。そして、予想外のラストの驚いてしまいました。面白い脚本です!                                       
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[019]輝ける青春
 9点2006-08-11
 【ネタバレ注意】
 いつまでもその世界に浸っていたいような魅惑的な作品だった。6時間6分だが、全く長さを感じさせない。ラストもあっけない感じで、もっともっと続きを見たかった、というのが・・・
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 いつまでもその世界に浸っていたいような魅惑的な作品だった。6時間6分だが、全く長さを感じさせない。ラストもあっけない感じで、もっともっと続きを見たかった、というのが正直なところだ。  いかにもイタリアらしい濃密な家族関係を悠然としたタッチで描くところは、「ゴッドファザー」にも似ている。違うのは、登場人物が正業に就き、真っ当に生きている点である。  ニコラ(ルイジ・ロ・カーショ)が精神鑑定のため囚人に話を聞く場面、相手の「我々の父親世代が今のイタリアの腐敗をもたらした」という発言に対し、ニコラは明確に否定する。実は、この部分が、本作品で最も言いたいことなのではないだろうか?  イタリアの今に至る約40年間の歴史を振り返ってみての肯定的評価ということである。  実業家の父を尊敬し、自分も精神科医として社会に貢献しているという自負と誇りを持つニコラは、自分の人生への視線が肯定的である。妻が過激派に加わり、弟は自殺するという不幸な出来事があっても、その視線には変わりがない。  そのようなニコラには、またいいことが待ち受けているわけである。ニコラとかかわる家族や友人たちにも同様なことが起こる。  生きていること自体価値がある、生き続ければ必ずいいことがやってくる、と言っているようである。  マッテオ(アレッシオ・ボーニ)がなぜ自殺にいたったのかはっきりと描かれていず、唐突感は否めない。この作品で、唯一不満の残るところである。  サンドロ・ペトラリアとステファノ・ルッリの脚本のコンビは、傑作「家の鍵」も手がけている。世界的に注目されるべき存在だと思う。  ルイジ・ロ・カーショは穏やかで優しい精神科医を好演。若き日のロバート・デ・ニーロに似ている点もなんとなく好印象を残す。アレッシオ・ボーニも複雑な性格の弟役を見事に演じた。  評論家の柄谷行人は、第2次大戦の同盟国日・独・伊の敗戦後の状況で日本と似ているのは、ドイツではなくて、むしろイタリアであると指摘する。イタリアの現代史にもなっているこの作品に違和感がないのは、そういうことも関係しているのかもしれない。                                       
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[020]ゆれる
 9点2006-07-15
 【ネタバレ注意】
 素晴らしい!!傑作!!!この作品は、2006年日本映画界の最大の収穫となることだろう。それにしても32歳西川美和監督の恐るべき才能の前には言葉もない。あまりに凄い・・・
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 素晴らしい!!傑作!!!この作品は、2006年日本映画界の最大の収穫となることだろう。それにしても32歳西川美和監督の恐るべき才能の前には言葉もない。あまりに凄いので逆に彼女の行く末に不安を感じてしまうほどだ。  つり橋での転落について猛(オダギリジョー)が見たとおりの証言をして稔(香川照之)の有罪が確定するわけだが、最終的に挿入されるつり橋のシーンが客観的なものだとしたら、猛の見た記憶も誤っていたということになるのか?「蓮実渓谷」に小さい時兄弟で行ったことがない、という猛の記憶が誤りであるように。  ラストシーン、稔の微笑は猛への許しを意味すると捉えたのだが、甘いだろうか?むしろ兄弟の決定的な隔たりを意味するのだとしたら、あまりに救いが無いように思うのだが。  いずれにせよ、長く記憶に残る名シーンであることは間違いない。  オダギリジョーの演技が素晴らしい。主演男優賞に値する名演技だと思う。香川照之に関しては、評価を留保したい。ほとんどの人が褒めているようだが、どこかしっくり来ないところがあるような気がするのだ。他の出演者はすべてが上手い。伊武雅刀、蟹江敬三、木村祐一、新井浩文が特に良かった。監督の演出力によるところも大きいだろう。
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[021]家の鍵
 9点2006-05-26
 【ネタバレ注意】
 ラスト10分、涙が溢れてしょうがなかった。ジャンニ(キム・ロッシ・スチュアート)の父としての苦悩、喜びが画面から余すところなく伝わり、心から共感できた。素晴らしい作・・・
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 ラスト10分、涙が溢れてしょうがなかった。ジャンニ(キム・ロッシ・スチュアート)の父としての苦悩、喜びが画面から余すところなく伝わり、心から共感できた。素晴らしい作品である。  過酷な歩行練習の途中、息を吐かせてくださいと立ち止まるパオロ(アンドレア・ロッシ)になおかつ続けろと医師が命令するとき、ジャンニが思わず走り寄り抱きつくシーンで、最初に涙してしまった。後は涙の波状攻撃である。  紆余曲折はあったものの、息子との関係が上手くいっていると思った矢先、あるトラブルでそう簡単にはいかないことを思い知り、ジャンニは思わず泣いてしまう。そのときパオロは慰めるのだが、この瞬間、父と子が逆転している。ここがリアルで面白い。父と子、健常者と障害者もお互いが人間である以上、その関係は一方的ではありえないのだ。  エンドクレジットに挿入される幸せそうな二人の表情を見ていると、本当の父子のようである。撮影に1年をかけたらしいが、その間にお互いにそのような気持ちが醸成されていったのではないか。その直前に泣くシーンがあっただけに、キム・ロッシの幸福そうな笑顔がまぶしく、作品自体の印象を明るいものにしている。  キム・ロッシ・スチュアートは、若き日のアラン・ドロンのように美しいが、演技力でははるかに彼を上回っている。自分の外見の美しさを捨てたところからしか出てこない感情表現が見事である。これから注目していきたい。
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[022]美しき運命の傷痕
 8点2006-05-06
 【ネタバレ注意】
 なかなか面白かった。原題は「地獄」だが、暗さはなく、生の肯定に根ざした吹っ切れた明るさがある。それは、車椅子生活で、言葉もしゃべれないという地獄を生きているはずの・・・
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 なかなか面白かった。原題は「地獄」だが、暗さはなく、生の肯定に根ざした吹っ切れた明るさがある。それは、車椅子生活で、言葉もしゃべれないという地獄を生きているはずの母親(キャロル・ブーケ)の、あの強い意志を秘めた目が象徴している。その母と同じ資質を受け継ぐ娘たちも、男と上手くやっていけないという地獄を抱えながらも三様に生きることに前向きである。母と娘3人、女たちのたくましさ、強さが印象に残るのだが、それに対して、男たちのなんと弱々しく情けないことよ!  22年前に父親が起こした事件及びその死がトラウマとなり、三姉妹のその後の人生に深く影響を与えたことは確かであろう。そして今父は無実だったことがわかり、トラウマの克服の可能性を感じながら娘たちが母と会う。  そのとき母は、「決して後悔しない」と言う。  この言葉で、母の夫への憎悪は消えていない、予定調和は否定され場面は暗転して終わる、という解釈が多い。  しかし、果たしてそうだろうか? 「たとえ無実だったとしても夫は裁判で真実を語らなかったわけだし、私に暴力を加え、おかげで口が聞けなくなり、施設で車椅子生活を余儀なくされている。そして無責任にも自殺してしまった。夫が無実の罪だというのがわかったからって、いまさらそれが何だというの?それで今の状況が変わるわけでもないし。それよりも、あんたたちも私も、これから生き続けていくことが大事なのよ!」  こう、言いたかったのだと思う。地獄からの脱却を予兆するラストだと思うのである。  同じ姉妹物でも「イン・ハー・シューズ」では、対照的な性格の姉と妹の関係に重きを置いて描かれていたが、本作品では姉妹間の関係はほとんど描かれていず、娘たちの近況が万華鏡を回転させながら見ていくように順番に、等分に絵柄のように表されていく。この手法により、今まさに娘たちに起こっていることを同時に追体験できるわけだ。「万華鏡」の意匠は構造にまで及んでいるということだろうか。上手い脚本(あるいは脚色)だと思う。  同じ母の遺伝子を持ちながら違う性格の三姉妹の、等分に描かれたそれぞれのありようが面白い。  その中では、何となく抜けている二女のセリーヌ(カリン・ヴィアール)のエピソードが好きである。  三女のアンヌ(マリー・ジラン)が不倫相手(ジャック・ペラン)の娘と妻にあてつけのように恋愛相談するところが恐ろしい。男ならこんなことは絶対にできない。まさに女という性(さが)の地獄を見せつけられたようなシーンであり、秀逸。  結構笑わせるところもある。 1.いつも一人で列車で寝ているセリーヌに車掌がプレゼントしようとすると、他に二人の女が居た 2.セリーヌは路上で声をかけられた男を自分に気があると勘違いし、部屋に入れ、裸になってベッドで待った 3.車椅子の母との散歩の後、お茶の時間にセリーヌの読む本がギネスブックで、人喰いの最高記録とか  苛烈な状況の描写の合間にこのようなシーンが挿入されることにより、物語にコクが出たように思う。  女性向けに作られた映画だとのコメントもあるようだが、そんなことは無い。本当に優れた作品は、見る者の性別を問わないのだ。  美しい4人の女優それぞれが上手い。  エマニュエル・ベアールは夫に別れを切り出す場面の演技が秀逸。抱いてほしいけれど別れるしかないとも思う複雑な感情を見事に表現した。40歳になるのに体の線が崩れていず、大したもんだと思う。  カリン、ヴィアールは寝顔が美しく、俺が車掌だとしても、同じように見つめてしまうだろう。このキャスティングは、成功している。裸になったのが自分の早とちりだと知ったときの表情も、上手い。  マリー・ジランは、恋愛で盲目状態になり自己中心的な言動を取る女をリアルに演じた。一途な目の光が印象的である。  キャロル・ブーケの目の演技がすごい。目の表情だけで、凛とした生きる姿勢が伝わってくるのだ。  音楽:ダスコ・セグヴィッチも良い。
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[023]そして、ひと粒のひかり
 9点2006-04-21
 【ネタバレ注意】
 素晴らしい!!!心の底からいいと思える映画だった。こういう映画を多くの人に見てもらいたいと切に思う。  特に印象深かったのは、マリア(カタリーナ・サンディノ・モレ・・・
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 素晴らしい!!!心の底からいいと思える映画だった。こういう映画を多くの人に見てもらいたいと切に思う。  特に印象深かったのは、マリア(カタリーナ・サンディノ・モレノ)の、胎内の子供の写真を見せられたときの母としての喜びの表情である。17歳でたった一人職も無く異邦の地にいるという最悪の状況の中でも、決して希望を失わず、生きることの喜びを感じるという、いいシーンだった。  どんな困難な状況でも明るさを失わず、自己主張をはっきりし、情に厚く前向きなマリアの人物造形が素晴らしい。「自分の人生は自分で掴み取る」という気概に満ちた自立した女性のキャラクターが、生き生きと魅力的に描かれている。ラストの驚きの彼女の決断に、思わず「頑張れ!」と応援したくなってくる。  劇中「子供をコロンビアでは育てられない」という発言が出てくる。そんなにコロンビアという国はひどいのか?世界有数の危険国といわれているが、その実情をこの目で見てみたいとも思う。  同じ年頃の少女が貧しい境遇の中で必死に生きていく話に「ロゼッタ」があるが、ロゼッタよりマリアの方がずっと他人に心を開いていて積極的で、堂々としている。法を犯してはいるが、他人を思いやる心も持ち、人間的にははるかに大人だと思う。作品としても本作品の方に、より好感を抱いた。  主演のカタリーナは実際に8つの粒を飲み込んだという。あの表情がリアルなわけだ。監督は、マイク・リーに似た即興を重視した演出法を取ったようで、それが強いリアル感をもたらし見る者にインパクトを与えることに成功している。  カタリーナの演技が素晴らしい。23歳のときに17歳の役を演じたわけだが、違和感はなかった。アカデミー主演女優賞にノミネートされ、劇中のマリアと同じようにコロンビアを出て今はニューヨークで暮らしている。これから、どんな作品に出るんだろうか。今後の彼女を応援していきたい。
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[024]受取人不明
 7点2006-03-23
 【ネタバレ注意】
 これまでに見たキム・ギドク作品の中では、最も暗く、悲しい話だ。米軍人との混血という理由で差別を受ける青年が、悩みを抱えたまま結局自殺してしまう。そのショックで母も・・・
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 これまでに見たキム・ギドク作品の中では、最も暗く、悲しい話だ。米軍人との混血という理由で差別を受ける青年が、悩みを抱えたまま結局自殺してしまう。そのショックで母も気が狂い、息子の後を追う。子供のころの事故で片目が不自由になった女性は、いったん手術で直ったのに、自らまたその目を傷つけてしまう。救いが無く、重苦しい気分になってしまう。これが、どんなに底辺で生活していても、生きることは幸福であると主張してきた、あのキム・ギドクの作品なのか?  監督の青年時代を事実7割フィクション3割で描いたらしいので、監督の生い立ちを研究する上では、格好の作品かもしれない。少年時に受けたいじめと暴力性が顕著な作風との間に、何らかの関連があるようにも見受けられる。復讐の道具としてピストルのおもちゃを作り続けていたという。この強い敵愾心が、その後のキム・ギドクの核の一部分になっているのかもしれない。  「駐留米軍の功罪」がテーマの1つらしい。私は駐留米軍のそばで暮らしたことがないのでピンと来ないところがあるが、米軍人による少女暴行事件などが頻発する沖縄の人たちは、よく分かるのではないだろうか?ただ、「コースト・ガード」もそうだが、時代や現実に根ざしてはいてもテーマが分かりやす過ぎると、キム・ギドク作品の良さである多義性が無くなり、魅力が薄まるような気がする。  キム・ギドク監督作品を見るのは、これで7本目になる。順位をつけると、以下のとおりである。         1. うつせみ         2. 悪い女         3. 悪い男         4. サマリア         5. 春夏秋冬そして春         6. コースト・ガード         7. 受取人不明
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[025]うつせみ
 10点2006-03-16
 【ネタバレ注意】
 素晴らしい!!!なぜこのような美しい作品が撮れるのか?なぜこのような信じられないストーリーを紡ぎだせるのか?どこからこのような発想が出てくるのか?  驚きと感嘆の・・・
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 素晴らしい!!!なぜこのような美しい作品が撮れるのか?なぜこのような信じられないストーリーを紡ぎだせるのか?どこからこのような発想が出てくるのか?  驚きと感嘆の88分だった。  誰が他人の部屋に入り、下着を手洗いしてあげるキャラクターを思いつくだろうか?この発想は、既成概念を取っ払ったところにしか出てこない。世界の映画作家の中でも、ここまで自由な発想ができる人は、他にいるか?  最初は怯えて生気がなかったソナ(イ・スンヨン)が、テソク(ジェヒ)が殴られて顔にあざを作ったら、嬉しそうな表情になったのが面白い。自分と同じ状況になった相手に親近感を覚えたのだろう。この、「他人と同じ状況を体験して、その相手への思いが深まる」というのは、「悪い女」「サマリア」でも見られる。キム・ギドクの思想の一端がここにあると思う。  「言葉がなくても映画になる。」と監督は語っている。普通、セリフと演技で観客にわからせるわけだが、そのセリフが無くなるわけだから、それだけ俳優の演技力が求められるということだろう。本作品の主役二人は、十分にその要請にこたえていて、無言のシーンの連続であるが、それがむしろ緊張感をもたらし、まさに映画になっている。  「悪い男」で一切言葉をしゃべらなかったハンギが、終盤で一言「俺たちみたいな分際で、人を愛せると思っているのか」と言う。もちろんこれは反語になっているのだが、実に効果的で、強い印象を残す。同様に、本作品でもずっとしゃべらなかったソナが、終盤になって初めて「愛してる」と言う。巧い!  「悪い男」の主人公もソナという名である。女と男の愛の形を描いている点で共通しているし、石井隆作品の「名美」みたいなもんかな。ソナの物語はこれからまたいくつも生まれる予感がする。  この物語を「幻想」と捉えれば、ルイス・ブニュエル作品に近いものがあるようにも思える。そういえば、彼もまた、既成概念を取っ払い、ありのままの人間を見つめる人だった。  ハリウッド作品のほとんどは、私の想定の範囲内である。そういう意味では驚きが少ない。どこか既成概念に寄りかかっているところがあるのだろう。そこには、「映画とは何なのか」という映画自体を問い直す視点が欠けているように思える。そこが本作品と決定的に違うところである。  キム・ギドク作品はヨーロッパで高く評価されているが、ハリウッド映画人はどう見ているのだろうか?その革新性についていけるのか?非常に興味深い。  イ・スンヨン、ジェヒ共に好演。二人とも美しく、それがこの映画の魅惑を増した。  音楽:スルヴィアンも良い。  キム・ギドク監督作品を見るのは、これで6本目になる。順位をつけると、以下のとおりである。            1.うつせみ            2.悪い女            3.悪い男            4.サマリア            5.春夏秋冬そして春            6.コースト・ガード
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[026]イノセント・ボイス 12歳の戦場
 10点2006-03-08
 【ネタバレ注意】
 これまで見たどの作品よりも衝撃的だった。傑作だと思う。12歳の少年が徴兵される!まだ小6だぜ!「男たちの大和」より3つも若いじゃないか!!事実に基づいているという・・・
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 これまで見たどの作品よりも衝撃的だった。傑作だと思う。12歳の少年が徴兵される!まだ小6だぜ!「男たちの大和」より3つも若いじゃないか!!事実に基づいているというが、こういう国が実際にあるということが信じられない。1980年といえば、ついこの前じゃないか!楽しく友達と遊びまわっている少年たちが、いきなり連れて行かれる。あまりにひどく、むごい。  しかし、こういう事実があったことを知ることができるのは、喜びなのである。生きている意味は、現実を知って初めて出てくる。そして、地球で暮らしている現実には、エルサルバドルの現実も含まれるのである。    ラテン系のせいもあるのか、過酷な状況の中で、少女との付き合いなど楽しい生活シーンも多く、それが逆に印象に残る。中でも、「ホタル」を飛ばすシーンは、幻想的で、美しかった。  また、徴兵逃れのため、子供たちがみな屋根の上で寝そべるシーンは、緊迫している状況なのに、のんびりしているようにも見え、なんとも面白い味わいがあった。  母親役の女優(レオノア・ヴァレラ?)が美しく、上手い。
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[027]THE 有頂天ホテル
 6点2006-02-26
 【ネタバレ注意】
 はっきり言って、何も残らない。何が「有頂天」なんだ。躁鬱症の躁というか、単に表層の浮かれている気分を描いたに過ぎないように思われる。  「やりたいことをやれ」とい・・・
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 はっきり言って、何も残らない。何が「有頂天」なんだ。躁鬱症の躁というか、単に表層の浮かれている気分を描いたに過ぎないように思われる。  「やりたいことをやれ」というメッセージを読み取れ、それに異論は無いが、そんなことはこの作品を見なくてもわかりきっていることなんじゃないのか。  今回強く感じたのは、三谷幸喜の異常な幼児性である。44歳にもなって、幸せを呼ぶ人形だと?白塗りの伊東四朗とかアヒルの迷子だとか付け耳だとか鹿のかぶりものだとか、ギャグがガキのレベルだろう。日本人はこんなに幼稚なのかと思われそうで、恥ずかしくて他の国の人に見せられない。  役所広司、佐藤浩市、原田美枝子など実力のある役者が、こんなのに嬉々として出るんじゃないよ。自分のキャリアに傷をつけるだけだぜ!もう少し、ましな作品に出てくれよ!  平和ボケ日本を象徴するような作品だと思う。この作品が大ヒットしているという事実に、今の日本の危うさを感じる。
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[028]サマリア
 8点2006-02-18
 【ネタバレ注意】
 何言ってるのか解らない度は、「春夏秋冬そして春」と同レベルであるが、ハリウッドの解りやす過ぎる映画に飽き飽きしている身にとっては、逆に新鮮で、有り難味があるように・・・
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 何言ってるのか解らない度は、「春夏秋冬そして春」と同レベルであるが、ハリウッドの解りやす過ぎる映画に飽き飽きしている身にとっては、逆に新鮮で、有り難味があるようにも思える。  女同士の友情を描き、体を売った友達と同じ立場に自分の身を置くという点では「悪い女」と同じである。相手と同じ体験をして初めて相手のことがわかり、そこで初めて友情が成立する、と監督は考えているのではないか?  モーテルから娘が友達の援交の相手へ電話するのを聞いて、刑事の父が突如泣くシーンが良い。娘は今小4だが、俺もこのような局面になったら、泣くだろうか?  これでキム・ギドク監督作品を5本見たことになる。順位をつけると、以下のようになる。    1. 悪い女    2. 悪い男    3. サマリア    4. 春夏秋冬そして春    5. コースト・ガード
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[029]コースト・ガード
 8点2006-02-13
 【ネタバレ注意】
 これもまた面白かった。ストーリーの予想を超える展開に、息を呑むばかりである。もうこの話はおしまいだろうと思うと、その後がある。予想を裏切られることが、驚きであり、・・・
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 これもまた面白かった。ストーリーの予想を超える展開に、息を呑むばかりである。もうこの話はおしまいだろうと思うと、その後がある。予想を裏切られることが、驚きであり、快感になる。映像の素晴らしさだけでなく、ストーリーテラーの才能もあるところが、世界的に注目される所以なのだろう。  単純な軍隊好きの男が、誤って民間人を射殺したことにより、人格が崩壊したという話だが、ひるがえって、通常の戦争で敵を殺したとして、その体験は人格に影響を与えないだろうか?たとえその戦争に正当な理由をつけることができたとしても、実際に敵として殺した人間の人生を考えてしまったらどうなるか?ベトナム帰還兵の問題というのがあるようだが、それはこういうことなのか?  殺すことをより正当化できる場合、たとえば正当防衛、死刑判決を下した判事、死刑執行人などはどうだろうか?理由はどうあれ、相手の命を奪ったことに変わりはない。一般市民は、人を殺してはならないということを小さいときから繰り返し強く教えられているはずである。その自分が、教えに反してしまった、と思うとき、それまでの自分と同じ自分でいられるだろうか?  と、このようなことを考えさせられただけでも意味がある。  堕胎させられたミヨン(パク・チア)が生簀の魚を食べようとするシーン、狂気の表現として秀逸。  これでキム・ギドク監督作品を4本見たことになる。どれもレベルが高い。順位をつけると、以下のようになる。             1.悪い女             2.悪い男             3.春夏秋冬そして春             4.コースト・ガード
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[030]Dear フランキー
 9点2006-02-12
 【ネタバレ注意】
 胸に沁みる秀作。物語の後半から涙が止まらなくなった。子供にとっていかに父親の存在が大きいかを感じられずに入られない。不在の父親への少年の心情、子供の手紙を読みたい・・・
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 胸に沁みる秀作。物語の後半から涙が止まらなくなった。子供にとっていかに父親の存在が大きいかを感じられずに入られない。不在の父親への少年の心情、子供の手紙を読みたいためにうそをつき続ける母親の心情、父親のピンチヒッターを務める男の心情、そのいずれもが良く描かれていて、感情移入できる。ゆえに、見る者は、この3人が一緒に暮らすことを願うようになる。だから、それができないように思わせておいてラストの手紙でその可能性を残す、という意外な結末に、母とともに、見る者も驚きと共に喜びを感じるのである。DVで夫から逃げる母子世帯で、しかも子供は聴覚の障害があるという困難な状況下、スコットランドの曇り空が似合うような風景の中での話だけに、余計にこの結末に暖かさを感じる。  脚本:アンドレア・ギブ、演出:ショーナ・オーバックの勝利だろう。  ストレンジャー(ジェラルド・バトラー)がフランキー(ジャック・マケルホーン)の部屋を訪れた時、世界地図に立ち寄り先がたくさんマークされた地図を見るシーン。俺がストレンジャーだったとしてもぐっと来る、いいシーンだ。他にも、川でストレンジャーにもらった石を投げずにそっとポケットに入れるシーン、リジー(エミリー・モーティマー)とストレンジャーのキスシーンなど、名シーンが多い。  ドメスティック・ヴァイオレンス(DV)と母子家庭という問題が背景にあり、単なるホームドラマの枠を超え、社会性を帯びているのも良い。DVに関して言えば、最近見たスウェーデンの「歓びを歌にのせて」、アメリカの「スタンドアップ」でも背景として取り上げられていた。まさに、世界共通の問題だということだろう。  ジェラルド・バトラーが素晴らしい。戸惑いながらも父親のピンチヒッターを演じ、徐々に本当の父親のような気持ちになっていく男を好演。エミリー・モーティマーも上手い。  この作品は三軒茶屋中央劇場で見たが、河合美智子さんも同じ名画座の下高井戸シネマで見て感動されたとのことで、親近感が沸きますね。
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