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湖のほとりで」に対してのコメント
  弱き人々へ 幸村和 2010-05-23
  【ネタバレ注意】
この物語の舞台は静かなイタリアの村。叔母さんの家から自宅へ帰ろうとしていた少女が、知り合いの車に乗って行ってしまうところからこの物語は始まります。いきなり走る緊張感。少女を連れ去った男、マルコの少し粘り気のある視線を含んだ表情をアップにしたり、まるでこちらの緊張を見透かすように物語は進んでいく…ように見えたのですが、それは事件発見のきっかけに過ぎません。むしろそういう目で見ていた自分に私はたじろいでしまいました。多分、そこまで計算に入れて練られたシーンなのでしょう。これで私はこの物語の主人公である警部と同じ目線に落としこめられます。巧い! マルコと少女が湖のほとりで発見したのは若い女性の他殺体です。犯人を捜査する展開は派手さはないものの、音楽を効果的に使って人々の揺れ動く心理や、事件のあらましが見えてくるのが十分ミステリアスで見ごたえがあります。 が、この映画のテーマは犯人捜しの謎解きというよりも事件をきっかけとして見えてくる人々それもとりわけ男たちの弱さ、脆さが映画のテーマのように感じました。 知的障害の息子を認められず憎みさえするマルコの父親、実の娘を病的に偏愛し義理の娘をまるで存在しないかのように扱う父親、アンナの病院通いを妊娠だろうと下衆な勘繰りをするコーチ、働くのが厭ですぐ仕事を休んでしまうアンナの恋人、発達障害の息子に心の折れた父親、そして警部さえも妻の認知症と向き合うことができない。ラスト近くでは妊娠中の女性刑事が警部に言います。「夫が怖気づいて出産に立ち会いたくないって言っているの」。 生物学的に見て男性の方が色々な意味で女性よりも弱いということを解剖学者の養老孟司さんが著書で述べていたことを思い出します。実生活でもそれを感じることは確かに多い。 ただ、この映画は男たちは弱くてダメだ、と言っているのではありません。これらの人々に対する目線はただただ悲しみを帯びているように感じました。犯人探しというとそちらに目が行ってしまい、犯人がわかると意外だったとか思った通りだとかそういうことに話が向きがちですが、犯人が見つかるシーンは大きな意味をなさず重厚な人間ドラマになっています。 何より余韻を残すのはラスト、警部が娘とともに妻を見舞いに病院に行ったシーンです。娘フランチェスカを見て微笑む妻が通り過ぎて行ったあと警部が娘に言ったセリフ。それは失っていくものに戸惑い、受け入れることができないでいた警部が、今あるものを愛おしむことができたときにこぼれたセリフです。そこには脆い人々に対する悲しみを湛えながらも、でも人は強くなれるんだ、という温かいメッセージを感じました。秀作です。
  
 

 
 



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